労作性熱中症の応急手当

労作性熱中症を疑った場合、応急手当として安静や経口補水と同時に、できるだけ広い体表面を冷却することが推奨されます。特に、最も重症度の高い労作性熱射病の場合には、深部体温を30分以内に39度以下にすることが救命の確率を上げ、後遺症が残る確率を最小限に抑えると報告されています [1]。

アイスバス法:重症の労作性熱射病患者の深部体温を最も効率よく冷却できる方法です [2]。氷水の温度は10~15度以下が目安です。傷病者が溺れないように、浅いプールを準備しましょう。また、長いタオルやシーツを脇の下から胸の前にかけて傷病者の姿勢を保持することも有効です。冷却中は冷たい水が循環するように水をかき混ぜましょう。アイスバスに浸かっていない部分(頭やアイスバスからはみ出た四肢など)はアイスタオルで冷却すると効率的です。

Tarp Assisted Cooling Method(TACO):アイスバスの準備が難しい場合には、タープで代用することも可能です [3]。氷と水を傷病者にかけた後はタープの重みが増すため、比較的多くの人員が必要となりますが、アイスバスよりも携帯性に優れているという特徴があります(i.e., 傷病者が倒れたところで冷却を開始することが可能)。

アイスタオル法:熱失神や熱疲労の場合は、アイスタオルによる冷却を検討します[4]。氷水に浸けたタオルは、冷水をしっかりと含んだままの状態で全身にかけていきます。氷嚢による冷却とは違い、広い体表面を一度に冷却することができるため、冷却効率が高いとされています。冷却効果を維持するためには、氷水に浸けたタオルを絶え間なく交換する必要がありますが、アイスバスやTACOよりも必要な氷と水の量が少ない点において、現場でも比較的簡単に実施できる方法です。労作性熱射病を疑ったものの、アイスバスやTACOの準備がない場合にはアイスタオルによる冷却が推奨されます[4]。

流水/ホース水散布法:氷の準備が困難な場合には、流水/ホース水散布法を実施します。ただし、この方法の効果はホース水の温度に依存することから、事前に水を流しておき、いざというときに冷たい水が流れる状態である必要があります。

  1. Casa DJ, McDermott BP, Lee EC, Yeargin SW, Armstrong LE, Maresh CM. Cold water immersion: the gold standard for exertional heatstroke treatment. Exerc Sport Sci Rev. 2007;35(3):141-149. 
  2. Hosokawa Y, Racinais S, Akama T, et al. Prehospital management of exertional heat stroke at sports competitions: International Olympic Committee Adverse Weather Impact Expert Working Group for the Olympic Games Tokyo 2020. Br J Sports Med. 2021;55(24):1405-1410. doi:10.1136/bjsports-2020-103854
  3. Hosokawa Y, Adams WM, Belval LN, Vandermark LW, Casa DJ. Tarp-Assisted Cooling as a Method of Whole-Body Cooling in Hyperthermic Individuals. Ann Emerg Med. 2017;69(3):347-352. doi:10.1016/j.annemergmed.2016.08.428
  4. 細川由梨. 労作性熱中症の応急処置としての冷却方法. 臨床スポーツ医学. 2020. 37(11):1272-1277.

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